Academic Express3活用事例
2020年4月にAcademic Express 3を導入し、運用3年目を迎えた埼玉大学。英語教育開発センターのセンター長を務める横山悟先生にお話を伺います。派遣留学においては、国立大学のなかでもトップの実績を誇る埼玉大学。2022年度からは全学英語カリキュラムを刷新し、より高度な学術英語スキルの習得を目的としたさまざまな取り組みを進めています。よりアカデミックな英語教育へとシフトしていく中で、AE3をどのように活用・運用されているのか。管理者視点の率直な感想やノウハウを伺っていきます。
学生には学術論文のアブストラクトだけでも原語で読める素養を身に着けてほしい
横山先生
よろしくお願いいたします。
エル
Academic Express 3(以下AE3)の導入から2年が経ちました。率直なご感想をお聞かせいただけますか?
横山先生
正直楽ですね。以前勤務していた小規模な大学ではeラーニングの導入が難しく、Moodle*を利用して自分でLMS(Learning Management System)を立ち上げてつかってましたから。私が本学に着任した時には既に AE3 が導入されていたのですが、使ってみてとても良いと感じたので継続利用することにしました。
*Moodle(ムードル):オープンソースのeラーニングプラットフォーム
*Moodle(ムードル):オープンソースのeラーニングプラットフォーム
エル
特に気に入っている教材や機能はありますか?
横山先生
AE3にはTOEFLやIELTS対策の教材だけでなく、TOEFL MiniやTOEIC Miniなどのテストも搭載されています。これがあれば学期ごとの伸び具合も見られますし、そういった面でも埼玉大学がめざす教育に合っていると感じます。別のオンライン学習教材と比較したこともありますが、テストがTOEICに限られていたり、回数が少なかったりと、本学には適しませんでした。
エル
22年度から始まった新しい「全学英語カリキュラム」では、学術英語のスキルアップに重点が置かれています。TOEFLテストの有無を考慮されたのも、そういった方針が背景にあるのでしょうか?
横山先生
埼玉大学では、これからの世の中を考えた時、学生には学術論文のアブスクラプトだけでも原語で読める素養を身に着けてほしいと考えています。もちろん翻訳でも読むことはできますが、そこにはどうしても翻訳者の主観が入ります。原語で読めれば論文の趣旨が理解できますし、ソースにもあたれるようになります。
エル
だからTOEFL対策のコンテンツが充実している必要があるのですね。
横山先生
以前は1・2年生にTOEICを受験させていました。しかし、1年生でTOEICを目標とした実用英語教育、2年生で専門教育に向けた学術英語、というカリキュラムになっていて、2年生は学術英語教育を受けているのにTOEICを受験、という矛盾が生じていました。それを学術英語教育に統一させました。本学では理工系を中心に大学院に進学する学生も多数いますので、2年ほど前から準備を進め、現在は1年生の時点から学術英語を学ばせてTOEFLを受験させるようにしています。カリキュラムの矛盾が解消されて、学生への説明もしやすくなりました。
エル
具体的には、AE3をどのように授業に取り入れているのでしょうか。データを拝見すると、埼玉大学は1人あたりの学習時間が長い傾向にあり、1日あたりの利用人数も1000人と多くの学生がAE3にアクセスしています。
横山先生
1年⽣と2年⽣は必修英語科目として、対面授業とeラーニング授業を組み合わせた授業を受講することになっていて、AE3はeラーニング授業の教材として利用しています。専攻に関係なくすべての1・2年生が受講しますので、2学年で約3,000人の学生が利用していることになります。
もちろん、授業の一部なので単位もつきます。本学は1年で4期のクオーター制なので、1学期1単位、2年で8単位です。1コマ90分の授業を想定して課題を与えていますので、1学期(8コマ)あたりのeラーニングによる学習量は12時間に相当します。
もちろん、授業の一部なので単位もつきます。本学は1年で4期のクオーター制なので、1学期1単位、2年で8単位です。1コマ90分の授業を想定して課題を与えていますので、1学期(8コマ)あたりのeラーニングによる学習量は12時間に相当します。
エル
授業に参加するだけでもかなりの学習時間を割くことになりますね。対面授業とセットになっているのはなぜですか。
横山先生
埼玉大学では、AE導入以前にも大学開発のeラーニング教材を使用していた時期があるのですが、その時はeラーニングの授業を独立した授業として単位認定していました。この教材が技術的にアップデートできなくなり、外部にアウトソースすることになった際、「eラーニングの授業を独立の授業として提供して良いのか」という議論が生じ、倫理的な観点から対面授業と合体したカリキュラム構成になった、という経緯があります。
エル
入学時は学生の英語レベルもさまざまだと思います。クラス編成はどのように行っているのでしょうか。
横山先生
1年生については、共通テストのスコアを利用してクラスを編成しています。AE3のテストを利用する方法もありますが、新入生を集めて使い方を説明したり、改めて試験を受けさせたりすると煩雑になりますし、時間もかかります。そこで共通テストのスコアを活用することになりました。
エル
2年生についてはいかがでしょうか。
横山先生
1年の学年末にTOEIC ITP(22年度からはTOEFL ITP)があるので、2年次についてはそのスコアを利用しています。初級・中級・上級にクラス分けて、それぞれの習熟度にあった課題をSelected Training*で用意しています。
*Selected Training: AE3の教材作成機能。豊富なコンテンツの中から簡単に問題作成・配信ができる。
*Selected Training: AE3の教材作成機能。豊富なコンテンツの中から簡単に問題作成・配信ができる。
エル
学習成果はどのように測っているのですか。
横山先生
学期ごとに期末試験としてAE3のミニテストを課して、相関関係を見ています。2021年度まではTOEIC miniテストを利用していましたが、2022年度からはTOEFL miniテストを利用しています。学年末にはTOEFL ITPも受験させるので、年間5回分を共通テストと比較できることになります。
エル
結果が楽しみですね。AE3をうまくカリキュラムに組み込んでいただけて嬉しいです。学生への課題については、何か工夫されている点などはありますか。
横山先生
課題の量は学生の様子を見つつ調整していますが、基本的には、繰り返し、インプットをすることを目的としています。
エル
反復学習ですね。
横山先生
10年ほど前から、学習心理学の分野では、英語学習にはTesting Effect(テスト効果)が効果的だと考えられています。繰り返し思い出させることが重要で、答えが分かっていても、同じ課題を2回、3回と取り組ませたいんです。そういう機能も実装されるとよいですね。
エル
記憶を定着させるための仕掛け、ということですね。
横山先生
記憶を定着させるには何回必要か、どのぐらいの間隔を空ければよいのかなど、今でもさまざまな研究が進んでいます。個人差もありますが、そうした観点からも反復学習の機能が実装されるとありがたいです。さらに欲を言えば、進捗状況を管理者側でも確認できるとよいですね。
エル
AEもさらに進化していく必要がありますね。課題の作り方、という点ではいかがでしょうか。対面授業との違いや、気を遣う点はありますか?
横山先生
学生がどうやって抜け道を見つけるのかよく考えて、対応策を練っています。リーディングの課題は答えが出回りやすいので、トレーニングに集中させるシステムにしたいと考えています。そういう観点から、AEにはリスニングの教材が豊富なのはよいですね。
エル
手の抜きどころがなくて大変だとは思いますが、その分しっかりと力がつきそうですね。実際のところ、学生たちの取り組み状況いかがでしょうか。
横山先生
学生もコツコツ型や集中型など、いろいろなタイプがいます。締切期間が短いと他の教科の学習との兼ね合いで、英語の課題に取り組めない学生もいますので、学生が自分の学習のスケジュールに応じて課題に取り組めるよう学期中はオープンにして柔軟性を持たせています。また夏休み等も含めて、単位取得のない独学用の課題もSelected Trainingで出題しています。
エル
自分のペースで学習を進められるのは、eラーニングのメリットですね。
横山先生
ただ、学期末はどうしてもアクセスが集中するので、学生からの問い合わせが増えます。システムへの負荷がかかり、動きが遅くなってしまうんです。そのため、1年生と2年生で課題の締切時期をずらして、負荷がかからないよう分散させています。また、夜はどうしてもアクセスが集中する傾向があるので、締切を早朝にすることで、サーバへの負荷を軽減させることができました。
その代わり学生には、救済措置がないこと、締切前はサーバに負荷がかかり、システムエラーなどの影響で課題を終えられない可能性があること、などの周知を徹底して、課題は早めに取り組み終えるよう定期的に連絡しています。
その代わり学生には、救済措置がないこと、締切前はサーバに負荷がかかり、システムエラーなどの影響で課題を終えられない可能性があること、などの周知を徹底して、課題は早めに取り組み終えるよう定期的に連絡しています。
エル
まさに、実際に運用してみなければ得られないノウハウですね。他にもAE3の機能に関するご希望などはありますか?
横山先生
課題ごとの学習時間について、学生側では閲覧できるようになっていると思うのですが、これが管理者側でも閲覧・計測できると良いですね。私は、モチベーションが学習時間の差に影響してくるのでは、と仮定しているので、それを検証したいと考えています。
エル
「モチベーション」は先生の研究テーマでもありますよね。
横山先生
脳科学や心理学をベースにしながら、eラーニングでモチベーションを上げるための方法を日々研究しています。大学でeラーニングの単位を取得するという条件下で、どのようにモチベーションを上げられるのか、効果が高いと思われる要因をひとつずつ調べています。
エル
ひとつ例を挙げるとしたら、どんな要因が考えられるでしょうか。
横山先生
将来的に英語が必要か、必要でないか。それをどう考えているかによってモチベーションは変わってくると思います。年に3回、学生へのアンケートを通じて英語学習へのモチベーションを内省させているのですが、回を重ねる中で考え方が変わる学生がいて、Self-efficacy(自己効力感)が伸びると、成績が上がるのではないかと考えています。今年度からは、AE3にアンケート機能が加わり、他のソフトを使わずにアンケート収集ができるようになるので、回答率が上がるのではないかと期待しています。
エル
Self-efficacyというのは、どういった概念なのでしょう。
横山先生
たとえば「自分は秀才だ、やれば伸びる」という強い信念を持った人はどんどんできるようになり、収入なども上がっていく傾向にある、という大規模データが複数報告されています。学習心理学の分野では、最終的な学習成果に対して、このSelf-efficacyを高めることが大切と言われていて、いかにSelf-efficacyを高めるか、何をすれば上がるのかが、研究分野での課題とされています。
日米の違い、理系・文系の違い、小中高大の違いなど、さまざまな環境要因が関与してきますが、3000人の学生数の中で、Self-efficacyが高まる条件を見つけて、刺激して、成果につなげる、という流れを作るための研究を行っています。
日米の違い、理系・文系の違い、小中高大の違いなど、さまざまな環境要因が関与してきますが、3000人の学生数の中で、Self-efficacyが高まる条件を見つけて、刺激して、成果につなげる、という流れを作るための研究を行っています。
エル
学習量や成果を数値化しやすいeラーニングは、研究面でももっとお役に立てることがありそうですね。AEもこれから、さらなる進化を遂げていく必要がありそうです。横山先生、本日は貴重なフィードバックをありがとうございました。
フェース
(以下:エル)