


リスニングやリーディングの上達には、ただ単に、文法や語彙などを覚えるだけでは不十分です。スポーツと同じように「練習」することが必要です。練習とは、もちろん読んだり聞いたりすることですが、やはりそこにはより効率的な練習法があります。
言葉の主要な目的とは、情報のやりとりです。私たちが、読んだり聞いたりするときは、そこから知りたい情報を得るために、読んだり聞いたりするのです。これは、何も役に立つ情報ばかりに限りません。例えば、小説を読む場合は、その内容、つまり情報を得ることによって、その小説を楽しむわけです。
したがって、リスニングやリーディングの練習の場合も、情報を得ることを目的として読んだり聞いたりする方がよいわけです。リスニングやリーディングの練習というと、表現や単語を覚えようということだけに目が向きがちですが、そうではなく、情報を得たり内容を楽しんだりしようとして読んだり聞いたりする方が、結局は上達に結びつく読み方であり、聞き方なのです。

情報を得るためのリスニングやリーディングに一番よいのは、自分にとって興味のあるものや、必要に迫られている内容を含んだものを読んだり聞いたりすることです。ただ、実際には、常に各自がそういった理想的な教材に出くわすことは不可能でしょう。だからといって、興味のないものは読んでも無駄かというと、もちろんノーです。
教科書など与えられた教材では、積極的に知りたいと思う内容が含まれていないことも多いかもしれません。この場合でも、「情報を得るため」というリスニングやリーディングの動機付けを行うことができます。これがいわゆるタスク(練習課題)と呼ばれるもので、もっとも一般的なものがTOEFLやTOEICにあるような内容理解の問題です。問題に答えるということは、どのくらいの理解度があるかということの確認以外にも、問題事項に答えるためにリスニングやリーディングを行うという側面もあるわけです。したがって、与えられた教材の練習では、常にタスクが設定されていることが必要です。
特に、リーディングについて言えることですが、情報を得る(内容を掴む)ために読むといっても、そこには色々な読み方が存在します。例えば、内容を正確にそして細かく掴むためには、ある程度、時間をかけてゆっくりと読まなければならないでしょうし、大まかな内容を掴むためだけなら、いわゆる飛ばし読みのようなことをするでしょう。これは、母国語を読むときには自然(無意識)に行っていることですが、外国語を読むときにもできるようになることが理想です。そのためには、いろいろな速さで読む練習を目的を持って意図的にするべきなのです。読む速さを変えた練習は、本当の意味でのリーディングの上達に役立ちます。

どのようなレベルの教材(題材)を読んだり聞いたりするのかも、リスニングやリーディングの練習には重要な要素です。例えば、あまりにも易しすぎるレベルのリスニングをしてもいい練習とならないのは感覚的に分かると思いますが、あまりにも難しいレベルを使っても上達の効率は上がりません。
リスニングは、物理的に聞き取れない部分を文脈や文法知識によって補っていくプロセスですが、聞き取れない部分があまりにも多いと、文脈や文法知識を総動員しても、その内容で理解できなかった部分を補い切れません。また、例えば10回聞いても聞き取れないものは、何十回聞いたところで聞き取れないものです。そういうものは、そもそも理論通りには話されていないのです。聞き取りできないのは、単に、耳の物理的な能力の問題ではないということを覚えておいてください。

あまりに難しいレベルのリスニングは、音楽を聴いているのと同じで、言語理解のプロセスの訓練とはなり得ません。一般論として、7〜8割は聞き取れると思えるものを聞くのがよいのではないでしょうか。
リーディングでは、このような問題は、起きにくいのですが、それでも、ゆっくり読む場合と、速読をする場合では、レベルを変えることが必要です。レベルが高すぎるものは、速読には向きません。つまり、難しい英文ばかりを読むことは、リーディングの速度を向上させるのに最適とは言えません。

英語は、日本語に直さず、英語のままで理解することが大切だとよく言われます。意味の理解を「訳」することだと考えている方には、感覚的にピンと来ないかもしれません。しかし、英語を英語のまま理解するという感覚は、言葉で言われてすぐに身に付くものではありません。それこそ、長きにわたるリスニングやリーディングの「練習=トレーニング」によって徐々に身に付いていくものです。もちろん、英語のネイティブスピーカーと同じレベルになることは不可能でしょうが、近いレベルになることは可能です。
ところが、難しい文章をゆっくり読むことばかりをしていると、常に日本語を介在させて、意味を掴んで行く習慣から抜け出すことができません。英語を英語のまま理解することは、どのくらい速く読めるかと直結しているのです。

さらに、読む速さの向上はリスニングの上達にもつながります。というのは、人間はしゃべる速さ以上のスペードで読むことができるからです。リスニングをしていて、話されている文章のすべての語が聞き取れ、しかも、そこでの単語や熟語の意味もわかるにもかかわらず、続けて話されていると意味が取れないといった経験はありませんか?この原因の1つに言葉をプロセスするスピードが、話されている言葉の速さに付いていっていないことが考えられます。その克服として、速く読むことは、話される速さ以上で言葉をプロセスする訓練となるのです。つまり、リーディングの練習はリスニング力の増強に大いに役に立つのです。
