

文法は、リスニング、リーディング、スピーキング、ライティングの4つの技能の中に含まれていません。では、文法の知識はどのように位置づけられるのでしょうか。まず、文法の知識は、正しい表現の文を作ったり、文が正しいか否かを判断するのに必要です。したがって、スピーキングやライティング、特に ライティングには、しっかりした文法を身につけていることが絶対に必要です。もちろん、リスニングやリーディングにも文法の知識は必要です。英語に限らず、言葉というものは、ただ単に単語を並べただけではありません。出てきた単語の意味がすべて分かっても、文法が分からなければ文全体の意味はつかめません。ただし、リスニングやリーディングでは、スピーキングやライティングとは少し違った意味で、文法の知識が必要です。

リスニングについて考えてみましょう。リスニング力とは、聞いて内容を理解することです。しかし、内容を理解するということは、音や語句を聞き取ることとはちょっと違います。どれだけ多くの語句を聞き取れるか、つまり、話されたことをいかに忠実に再生するか、という能力はリスニング力ではありません。実際の聞き取りにおいては、すべての語句を聞き取るということはありえません。そもそもすべての音が、理論通りに発音されていることなどないからです。これは英語に限らず、日本語を聞くときも同じです。理論通りに発音されていないところは、そこの部分だけを何回聞いても、物理的に聞き取れるということは絶対ありません。むしろ聞こえない部分は、文法知識や文脈(話の流れ)から判断するというのが、実際のリスニングのプロセスなのです。ですから、ここでの文法知識は、時間をかけて文や表現を分析するための知識ではなく、文法知識を瞬時に動員する能力をも含んでいると言えるでしょう。

リーディングについても、同じことが言えます。リーディングの際、私たちは書かれている文字や単語を全て読んでいるかといえば、そんなことはありません。特に、母国語の文章を読む場合がそうです。しかし、英語などの外国語を読むときは一字一句全て読んでいる方も多いのではないでしょうか?
英文を「スラスラ」読めるということは、ある程度の速さで読めるということです。一字一句全て読んでいたのでは、とても「スラスラ」読むことは望めません。スラスラ読むということは、全部を読まないということです。読まない部分の情報を補ってくれるのが、文法知識や文脈なのです。

文法と、リスニングやリーディングは、テニスで言えば「ルールブック」と「実際にボールを打つこと」に相当します。ルールをいくら覚えていても、練習をしなければ上達は絶対に不可能です。同じように、文法の学習で得られた知識は、リスニングやリーディングなどの言語の運用能力に役立つものにしなければいけません。そして、これは、リスニングやリーディングの「練習」をすることによってのみなし得るのです。
